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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1263号 判決

控訴人 国

右代表者法務大臣 倉石忠雄

右指定代理人 石川善則

〈ほか二名〉

被控訴人 山田雪枝

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 帯野喜一郎

主文

原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人山田雪枝に対し二四一万〇〇五一円及び内二二六万〇〇五一円に対する昭和五〇年九月二四日から、内一五万円に対する同五一年三月五日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、被控訴人山田泰男、同山田栄治に対しそれぞれ二三六万〇〇五一円及び内二二六万〇〇五一円に対する昭和五〇年九月二四日から、内一〇万円に対する同五一年三月五日から各支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被控訴人らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その一を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの負担とする。

控訴人が各被控訴人に対し二四〇万円の担保を供するときは、その担保を供された被控訴人による仮執行を免れることができる。

事実

控訴人指定代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、当審において控訴人指定代理人が乙第一七号証の一、二を提出し、これはいずれも鈴木昇が本件自転車を撮影したものであると付陳し被控訴人ら代理人が右乙号各証が控訴人指定代理人主張どおりの写真であることは認めると陳述した外は、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し原判決五枚目表一行目の「第一車線」とあるのを「第三車線」と訂正する)。

理由

一  山田照雄(以下照雄という)が昭和五〇年九月二三日午後一〇時ころ、甲府市上阿原町四一二番地二先の本件道路上り車線北側にある本件側溝に転落し死亡したこと、本件道路及び本件側溝が建設大臣の管理する公の営造物であることは当事者間に争いがない。

二  被控訴人らは本件道路及び本件側溝の設置・管理に瑕疵があり、これに起因し本件事故が発生したと主張するので検討する。

《証拠省略》を綜合すると次の事実が認められる。

本件道路は通称甲府バイパスと呼ばれる国道で、昼夜の別なく交通量の激しい道路である。そして片側二車線で設置されたが、本件事故現場附近より東に向う上り車線は約三〇〇メートルの間は北側が拡張されアスファルト舗装をした車線が設けられ三車線となっている。上り車線の外側の第三車線は約二〇〇メートルの距離にわたって立入禁止の標示によって第二車線と区画されて東に延び、北方に通ずる農道に連続しているが、その間さらにその外側には幅員二・五メートルの自転車通行を認められた本件歩道が車道路面より〇・二メートル高く設置され、さらにその北側は有蓋の側溝となっている。本件歩道は本件事故現場の手前約一五・六メートルで終り、歩道すりつけ部分をもって本件農道(未舗装で幅員六メートル位)が第三車線に取付けられる部分に接続するが、右有蓋側溝は本件歩道の終るところから左斜方向に向い本件側溝に通ずるコンクリート函渠となり車道路面とは平になっている。本件側溝は長さ約一三メートル無蓋となる側溝で、両岸は車道の路面より〇・七五メートル低く、その深さは〇・九五メートルあり、第三車線を西方に延長した線上に位置する。そして本件側溝は本件道路第二車線から二・一メートル隔たってこれに沿って西に延び、南側にはガードレールが設置されている。本件事故当時右ガードレールの北側の本件側溝の両岸には葦が繁茂し、本件側溝はこれに覆われるような状況にあった。なお本件側溝の第三車線に接するところには転落防止の設備はなく、かつ照明施設もなかった。

第三車線は、従来あった農道の一部を第二車線の外側歩道のさらに外側につけ替えるという当初の計画を、甲府市向町地区、同市上阿原町地区地元民の要望により変更して設置されたもので、中断されることになる農道を本件歩道及び第三車線をもって連続させる構造・機能をもち、従って第三車線は自転車や農耕用機械等の通行も認められているが、交通規制の上では上り方向に向ってのみの一方通行とされ本件歩道上の自転車通行についても同様であった。しかし本件事故現場の西方上阿原町四一一番地先で本件国道と交差する道路があり、これは本件農道と連続しているけれども、本件歩道から右交差点方向に至るためには、本件農道はかなりの迂回路となるうえ整備されておらず、夜間には照明施設もないところから、昼夜を問わず自転車も歩行者も第三車線から本件側溝の南のガードレールと第二車線との間の舗装されない路肩部分(幅約五〇センチメートル)を通行し、また前記交差点附近から西方に向うためにも右路肩部分が同様に利用されてきた。なお本件国道は附近に信号機のある交差点はなかった。

照雄は昭和五〇年九月二三日午後三時五〇分頃から向町七五一番地の小林元治方(本件事故現場の東方に所在する)で同人らと午後八時半過ぎまで飲酒し、自転車で前記交差点よりさらに西方にある自宅に向ったのであるが、本件側溝の水路に頭を西にしてうつ伏せになって水中に沈み、その上に自転車が乗りかかった状態で翌日午後発見されたが、右自転車のダイナモは作動していなかった。

以上のとおり認められ(《証拠判断省略》)右認定事実からすれば、照雄は前記ガードルレールわきの路肩部分を通って帰宅すべく、自転車で本件歩道か第三車線かは明らかではないが西進走行してきたところ、夜間無燈火のうえ酔っていたため附近に照明施設のない本件側溝に接近し過ぎ、操作を誤って転落防止設備のない水路に転落したものと推認すべきであり、右認定を左右するに足る証拠はない。そして本件側溝は前認定の位置・形状・構造からすれば、自転車で通行するものがこれに接近するときは転落し、生命を失いかねない危険のあることが当然予想されなければならないところであるから、本件側溝は設置・管理につき瑕疵ある営造物であり、これがため本件事故が発生したものといわざるを得ない。

三  しからば控訴人は国家賠償法二条一項により本件事故によって生じた損害を賠償すべき責任があるから控訴人らの損害について検討する

(一)  照雄の逸失利益についての判断は当裁判所も金二六四〇万〇七六六円と認定する。そしてその理由は原判決理由説示と同一である(原判決二〇枚目表六行目から二二枚目表四行目まで)からここにこれを引用する。

(二)  しかしながら、照雄は前述のとおり酔ったまゝ無燈火で自転車を運転し、しかもその通行方法は規制に反していたうえ注意散漫な運行をもって本件側溝に接近し過ぎ操作を誤った過失があり、これを斟酌すると賠償すべき損害は八割を減ずるをもって相当とする。よってその残額は五二八万〇一五三円(円以下切捨)となる。

(三)  被控訴人山田雪枝が照雄の妻であり、同山田泰男及び同山田栄治が嫡出子であることは当事者間に争いがないから、被控訴人らは照雄の死に伴い各三分の一の一七六万〇〇五一円宛相続したものというべきである。

(四)  慰藉料及び弁護士費用に関する判断は、次のとおり訂正するほか原判決理由説示と同一である(原判決二二枚目裏末行から二三枚目表末行まで)からこゝにこれを引用する。

原判決二三枚目表四行目の「一五〇万円」を「五〇万円」と一〇行目の「四〇万円」を「一五万円」と、末行の「三〇万円」を「一〇万円」とそれぞれ訂正する。

四  しからば本訴請求は、被控訴人山田雪枝については、合計二四一万〇〇五一円と内金二二六万〇〇五一円に対する本件事故発生の日の翌日である昭和五〇年九月二四日から、内金一五万円に対する本件事故発生の日より後である昭和五一年三月五日から各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、被控訴人山田泰男、同栄治についてはそれぞれ合計二三六万〇〇五一円及び内金二二六万〇〇五一円に対する昭和五〇年九月二四日以降内金一〇万円に対する昭和五一年三月五日から各支払済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容すべきもその余は失当として棄却すべく、これと一部趣旨を異にする原判決は不当であるから、右の限度で変更し訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、九三条、仮執行免脱の宣言につき同法一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 綿引末男 裁判官 田畑常彦 原島克己)

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